性売買の暴力が「思想」の問題にすり替えられる――法務省検討会
法務省の検討会では、性を売る女性の非処罰や買春者の処罰、性交類似行為を売春防止法の対象に含めるかなどが議論されています。
検討会に先立つヒアリングでは、性売買を経験した当事者や支援団体から、貧困や虐待、衣食住の喪失、ホストやスカウトによる支配、妊娠や性感染症、トラウマなど、「自由な選択」という言葉では語ることのできない経験が伝えられました。
しかし、その後に公開された議事録では、性売買を女性への暴力として捉え、その背景にある男女間の力関係や搾取構造を問うことが、「思想信条」や「価値観」の問題であるかのように語られています。
当事者たちが語っているのは思想ではありません。
密室で客と二人きりになり、嫌だと言ってもやめてもらえないこと。店や客に逆らえば収入を失うこと。妊娠や性感染症、暴行、盗撮、PTSD、自傷、長期にわたる心身への影響が残ること。
現実に起きているこうした暴力や被害を、「価値観が分かれている」「道徳的評価が一致していない」といった抽象的な議論に置き換えてしまえば、性売買を成り立たせている支配や搾取の構造そのものが見えなくなってしまいます。
また検討会では、風俗店で行われる性交類似行為や買春を規制すれば、そこで収入を得ている女性が困窮するのではないか、支援から遠ざかるのではないかという懸念も繰り返されています。
しかし、女性が性売買をしなければ生活できない状況にあることを、人権侵害を規制しない理由にしてよいのでしょうか。
今年7月、私は韓国を訪れ、性売買を経験した女性を支援する自活支援センターを視察しました。
韓国では、性売買を経験した女性に対して、住居や医療、法律相談、教育、資格取得、就労支援などを組み合わせた公的な支援が行われています。性売買から離れても生活できるよう、所得を保障しながら学び直しや就労の準備ができる仕組みもあります。
必要なのは、
「規制したら女性が困るから規制しない」ということではなく、「規制によって女性が困らないように、国が何を保障するのか」を考えることです。
女性が性売買をしなければ生きられない現状を残すことを、「保護」と呼ぶのは間違っています。
性売買の中で起きている具体的な暴力や搾取から出発し、女性を処罰するのではなく、買春する側や業者の責任を問い、性売買から離れたい人が離れられるための生活保障と支援をつくる。
「性売買をしない権利」をどう保障するのか。
今回の記事では、そのことを書きました。
ぜひお読みください。
▼『地平』2026年9月号
連載「歌舞伎町で。」第15回
「すり替えられる論点――『思想』の問題にされる暴力」

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