「買春が処罰化されると経済損失」――誰の利益が守られているのか

日本では、性売買が構造的な暴力やジェンダー差別の問題としてではなく、女性の「自己責任」や「選択」の問題として語られてきました。背景にある虐待や貧困、孤立、女性を性売買に誘導する社会構造は覆い隠され、性売買を風営法のもとで合法化し、性搾取を社会のなかに組み込んできました。法務省は買春処罰の検討会に風俗店の顧問弁護士を呼び、弁護士は、買春処罰による「経済損失」を主張しました。
仁藤夢乃 2026.05.08
誰でも

毎日新聞に、性売買問題について寄稿しました。ウェブ記事はこちら

2026年5月7日毎日新聞

2026年5月7日毎日新聞

日本では、性売買が構造的な暴力、ジェンダー差別の問題としてではなく、女性の非行や自己責任として捉えられてきた。買われる側には、虐待や貧困、障害を抱えた少女や、シングルマザーの女性が多くいる。コロナ禍以降は、貧困の拡大で「学費や生活費のために」という女性も増えた。

 これが彼女らの「選択」として語られる。その背景にある福祉の機能不全や女性を性売買に誘導する社会構造には、目が向けられて来なかった。金銭を介した支配が根底にある買春の暴力性にも、焦点が当たらない。逆に売春行為を社会の善良な風俗を乱すものと位置付けることで、搾取の構造を覆い隠してきた。

 さらに日本では、売買春を建前上は禁止しながら、挿入を伴う「性交」以外のあらゆる性行為の売買を風営法で合法化している。「性交類似行為」という枠組みで性売買を正当化している国は、日本だけだ。店では、女性に対するあらゆる虐待行為が「サービス」の名の下に正当化される。

 買春行為を罰則の対象にしても「買いたければ風俗店へ」「体を売るなら風俗店へ」ということでは、搾取の構造は変わらないどころか、性売買業者の利益になる。

法務省の検討会委員に、性売買問題の専門家はいない。4月の会合では風俗店の顧問弁護士が呼ばれ、法改正により客が委縮したり、性風俗そのものが違法化されたりすると、2兆~5兆円もの経済的打撃があると訴えた。推計215万人の女性が職を失うとも主張したが、それだけの女性が買春される状況にあることこそが問題だ。

性売買は構造的な性搾取であり、性を買われる側は被害者だという前提で議論を進めなければならない。北欧やフランス、韓国などでは、既にそうした視点で、性売買防止法が導入されている。

 人権保障と脱性売買の推進は、国家の責務だ。買春処罰とともに、買われる女性を非処罰化し、支援する法整備を急いでほしい。

性売買の問題について、日本では実態に根差した議論がほとんどなされていません。

そんななか、法務省は検討会に風俗店の顧問弁護士、つまり性売買によって利益を得ている業者側の代理人を呼びました。弁護士は、性売買による人権問題ではなく、経済損失の問題として語っています。

AV新法が制定されたときも、AV業界団体が、民間団体のヒアリングに呼ばれ、私の横に4人並び、弁護士も同席していました。そして、彼らは、AVを規制すると、3000億円のビジネスが海外に流れるなどと主張しました。それを政府が受け止める形での法制定がなされ、この法律は女性の人権救済にほとんど役立たないまま形だけのものとなっています。そのようにして、現代でも権力者たちはつながり、まやかしの立法や法改正で性売買を温存しています。

AV新法の問題と制定過程を解説した『性売買を合法化する「AV新法」』はこちら

「自己責任」や「必要悪」という言葉で片づけるのではなく、なぜ女性たちがそこに追い込まれるのか、なぜ買う側の暴力性が見えなくされてきたのかを、多くの人に知ってほしいと思っています。

月刊『地平』連載「歌舞伎町で。」でも、詳しく実態を伝えています。

月刊『地平』の連載「歌舞伎町で」でも、詳しく実態を伝えています。

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(8)買春男の評価なんていらない(2026年2月号)

(10)買春処罰だけでは足りない(2026年4月号)

(11)性風俗という暴力(2026年5月号)

(12)続・性風俗という暴力(2026年6月号)

【6/30まで配信中】朝日新聞・記者サロン対談動画『買春は暴力 変わるフランス、日本は』

大阪大学教授の島岡まなさんと朝日新聞の大貫記者と共に、性売買問題に対して必要な施策について対談した動画が公開中です。

こちらもぜひご覧ください。 視聴はこちらから

売春のための客待ちをしたとして、路上に立つ女性たちの摘発が相次いでいます。

客を「勧誘した」として売春防止法が売る側を処罰の対象としているためです。

フランスは2016年、買春を「暴力」と位置づけ、売る側を非犯罪化し、買う側に罰則を科す「買春処罰法」を制定しました。

1956年の売防法制定から70年、日本でも高市早苗首相が規制のあり方の見直しを法相に指示する動きも出ています。

フランスの現場から見える日本の課題や問題点を探ります。

性売買の問題について、これからも現場で見てきたことや、女性たちの声を書いていきます。 よろしければ、無料の読者登録をして読んでいただけたら嬉しいです。

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