国家の選択は、性売買の現場をどう変えるのか――韓国・全国連帯サマーアカデミーで、日本の現状を報告
私が報告を担当した回のテーマは、「国家の選択は性売買の現場でどのように異なる風景をつくったのか――性売買政策の分かれ道」。韓国女性政策研究院のキム・ホンミリさんが司会を務め、「性売買問題解決のための全国連帯」政策委員長のシン・パクジニョンさんとともに、韓国、日本、ドイツなどの制度を比較しながら、誰を処罰し、誰を支援し、誰の責任を問うのかによって、性売買の現場が大きく変わることが議論されました。
私は、日本では売春防止法によって女性を処罰する一方、風営法によって性産業を維持してきたこと、現在始まっている法改正の議論でも女性の非処罰や脱性売買支援が十分に扱われていないことを報告しました。
また、Colaboが受けてきた攻撃と、攻撃があっても女性たちが追い出されずに活動できる女性人権センターをつくろうとしている理由についても伝えました。

女性を処罰し、性産業を維持してきた日本の制度
私はまず、日本の売春防止法が、性売買の状況に置かれた女性の背景を理解し、支えるためにつくられた法律ではなかったことを話しました。
かつて、売春防止法のもとで設置されていた婦人保護施設では、女性たちは外部との接触を厳しく制限され、裁縫や料理など、「良き妻・良き母」になることを前提とした生活指導を受けていました。
そこにあったのは、性売買を女性に対する暴力や人権侵害として捉える視点ではありません。性売買の状況に置かれた女性を、「更生させるべき存在」として扱う思想でした。
2024年、女性支援新法の施行に伴い、この「更生」の仕組みは売春防止法から切り離されました。しかし、売春防止法第5条の勧誘等の罪は今も残っています。実際には、性を売る側の女性が処罰される構造は変わっていません。
一方、日本では、風営法に基づく届出によって、性風俗店が広く営業しています。
つまり、日本には、売春防止法によって女性を処罰しながら、風営法によって巨大な性産業を維持し、管理するという二重構造があります。
この制度のもとで、男性が女性を買うことは、暴力ではなく「サービスを利用すること」として日常化してきました。
友人同士で性風俗店に行く。会社の接待で利用する。18歳になった記念に行く。女性を買うことが、男性同士の付き合いや、「大人になるための通過儀礼」のように扱われることさえあります。
その一方で、性を売る女性には、「なぜそんなことをしたのか」と自己責任が問われます。
買う側の存在は見えなくされ、売る側の女性だけが問題にされる。この構造そのものが、日本社会における性差別の表れです。
なぜ今、日本で法改正が議論されているのか
2026年、日本では法務省に「売買春に係る規制の在り方検討会」が設置され、売春防止法の見直しと買春者処罰についての議論が始まりました。
長年、買春者への処罰を求めてきた立場として、議論が始まったこと自体は歓迎しています。
しかし、同時に強い危機感もあります。
今回の議論は、女性の人権が重視されたことから始まったものではありません。
日本が「買春しやすい国」として海外で知られるようになり、外国人による買春が社会問題として注目されたことが、大きなきっかけになっています。
けれども、私たちが歌舞伎町で日々出会っている現実では、買春者の多くは日本人男性です。
日本社会が長い間、女性を買う文化を容認し、その土壌を育ててきた責任を問わないまま、外国人の問題として扱うだけでは、性売買の構造は変わりません。
検討会では、性風俗業界の顧問弁護士が、買春者を処罰すれば性風俗店の利用者が減り、数兆円規模の経済的損失が生じ、多くの女性が職を失うと主張しました。
性売買が、女性の人権の問題ではなく、産業や経済の問題として語られているのです。
また、買春者処罰の対象を性交と肛門性交の勧誘だけに限定すべきだという意見も出されています。
しかし、現場では、性交以外の行為によっても深刻な暴力や被害が起きています。
挿入が目的だったのか、実際に挿入があったのかだけを基準にすれば、実効性の乏しい法律になりかねません。
買春者処罰だけでは不十分
Colaboは検討会に対し、意見書を提出しました。
私たちが求めているのは、買春者を処罰することだけではありません。
性売買の中にいる女性を処罰しないこと。性売買から離れるための支援を公的責任で行うこと。そして、性売買を女性に対する暴力・人権侵害として位置づけることが必要です。
今の日本で路上に立つ女性だけを取り締まれば、業者は女性たちに、「路上にいると捕まるから店に来ないか」と声をかけます。
路上から女性を見えなくしても、性搾取はなくなりません。むしろ、性産業の利益につながる可能性があります。
必要なのは、「路上に立つ女性」を問題にすることではありません。
女性を性売買に追い込む社会の構造を変えること。買う側、斡旋する側、利益を得る側の責任を問うことです。

韓国には、性売買から離れるための社会的な支えがある
講演後、会場からは、Colaboの活動資金、性売買の状況にある女性への医療支援、女性人権センターの構想などについて質問がありました。
Colaboの活動費の約8割は、市民一人ひとりからの寄付によって支えられています。
行政からの委託や補助が途絶えた後も、1,000円、2,000円という寄付を積み重ねながら、活動を続けてきました。
性売買の中で心身を傷つけられ、婦人科疾患などが見つかる女性もいます。
しかし、日本には、そうした医療費や生活費、学費を継続して保障する脱性売買支援の制度がほとんどありません。必要な費用を、Colaboが寄付から支払うこともあります。
韓国では、性売買から離れる女性に対して、住居、医療、法律相談、教育、生活費、職業訓練などを組み合わせた支援が行われています。
支援を利用しながら学校に通うことや、生活費を保障されながら、自立のための準備をすることができます。
日本では、学校に通うための学費を貯めるために性売買をし、学校に通い始めても生活費が足りず、再び性売買をするという状況が起きています。
「性売買から離れたいなら、別の仕事をすればいい」と言うだけでは、女性は抜け出すことができません。
長い間傷つけられてきた心身を休め、安心できる住まいを得て、毎朝起きて学校や職場に通えるようになるまでには、時間と継続的な支えが必要です。
韓国の当事者たちから、「支援があったから性売買から離れることができた」と聞くたびに、国家が責任を持って支える制度の重要性を強く感じます。
女性の人権活動を攻撃する社会
講演では、2022年以降、Colaboが受けてきた攻撃についても報告しました。
事実ではない会計不正の疑惑がインターネット上で大量に拡散され、活動現場への妨害、スタッフやシェルターへの攻撃が相次ぎました。
Colaboをモデルにしたアダルトビデオまで制作され、支援活動や、性搾取被害に遭った少女たちが性的な消費の対象にされました。
性風俗店の利用を発信する人物やYouTuber、政治家たちが活動現場に押しかけ、少女たちが利用するバスカフェの前で騒ぎ、撮影を繰り返しました。
Colaboへの攻撃を選挙運動に利用した政治家や、支援につながっていた少女の困窮につけ込み、金銭を渡して虚偽の証言をさせた政治家もいました。
こうした攻撃によって、東京都は「危険だから」という理由で、Colaboの活動を中止させました。
最も大きな影響を受けたのは、活動を妨害した人たちではありません。
夜の街で行き場を失い、性売買の中にいる少女たちです。
性売買の問題を変えようとするとき、向き合う相手は一人の買春者だけではありません。
女性を商品として扱う業者、女性差別を利益や票に変える政治、性搾取を娯楽として消費する文化、そして声を上げる女性を黙らせようとする社会全体と向き合わなければなりません。
攻撃があっても追い出されない拠点を
会場では、「攻撃によってColaboを離れた人はいたのか」という質問もありました。
攻撃が始まったとき、一部の人たちが離れていったことは、とてもつらい経験でした。
他の女性支援団体からも、「政治的な発言をするから女性支援が攻撃される」「米軍基地や日本軍『慰安婦』問題について発言するのをやめてほしい」と言われました。
行政に異議を唱えれば資金を失うかもしれないという恐れから、多くの支援団体が沈黙する状況もあります。
一方で、その後、性暴力の問題に長年取り組んできた弁護士や、腹を据えてともに闘う人たちが、新たに役員として加わってくれました。
こうした経験から、私たちは、攻撃があっても揺るがず、誰にも追い出されない女性のための拠点が必要だと考え、女性人権センターの建設を進めています。
女性たちが食事をし、働き、相談できるカフェ。
性搾取の実態や女性運動の歴史、当事者の声を伝えるライブラリー。
Colaboの支援拠点、女性活動家のための安全な活動拠点、そしてシェルター。
日本で声を上げることを恐れている女性たちも、そこに来れば堂々と活動し、つながることができる。そんな場所をつくりたいと思っています。
「性売買は搾取である」という感覚を社会に残す
シン・パクジニョンさんからは、性売買を合法化したドイツの現状が報告されました。
合法化によって、性売買に対する偏見がなくなり、女性が安全に働けるようになると主張されてきました。
しかし、実際には、貧困や移住、差別などの困難を抱える女性たちが大規模な性産業に集められ、買春者が常に「新しい女性」を求めるため、女性たちは短期間で各地を移動させられています。
合法化した後に女性を保護しようとしても、登録や健康相談、証明などの負担は女性側に課され、登録していない女性は処罰の対象になります。
その一方で、業者や建物の所有者など、利益を得る側の責任は見えにくいままです。
華やかな服装をし、笑顔で働いているように見える女性に対して、「嫌なら辞めればよかった」「自分で選んだのではないか」と言うことは簡単です。
しかし、性売買が当たり前になった社会では、女性は、性売買に適した表情や振る舞いを求められます。その外側からは、そこで何が起きているのかが見えなくなっていきます。
だからこそ、「性売買は搾取である」という感覚を社会が持ち続けることが重要だと語られました。

韓国の複数の地域で性売買が行われているエリアを訪問しました。

抵抗してきた歴史が、次の運動を支える
最後に、韓国と日本の違いについて話し合いました。
シン・パクジニョンさんは、韓国で反性売買運動が広がった背景には、植民地主義や軍事独裁政権に抵抗してきた市民運動の歴史があると話しました。
その運動の中で、女性たちが「これからは女性の問題を語る番だ」と声を上げてきたのです。
性暴力、家庭内暴力、セクシュアルハラスメントなどに取り組んできた女性運動の蓄積があったからこそ、性売買の問題にも、多くの市民や女性たちが力を寄せることができたといいます。
私たちは運動を始めたとき、自分たちが一人だとは思いませんでした。あまりにも多くの仲間がいたからです。
一方で、日本では、Colaboや性搾取に反対する活動が孤立させられ、攻撃されてきました。
それでも、15年前、ほとんど一人で始めた活動から、今では性売買の問題に声を上げる当事者や活動家という仲間が国内にもでき、韓国、フィリピン、スウェーデンをはじめ、国境を越えたつながりも広がっています。
韓国の活動家や当事者が積み重ねてきた実践を日本社会に伝えることは、「性売買は仕方がない」「女性が選んだことだ」とする日本の常識を変えていく力になります。
国家の選択は、性売買の風景をつくる
どのような法律をつくるのか。
誰を処罰し、誰の責任を問うのか。
性売買から離れたい女性に、どのような生活と支援を保障するのか。
国家の選択は、性売買の現場の風景をつくります。
同時に、韓国で「売春防止法」を「性売買防止法」へと変えてきたように、当事者や活動家が声を上げることで、国家の選択を変えることもできます。
日本でも、性を買われる女性ではなく、買う側と、搾取によって利益を得る側に責任を問うこと。
性売買の中にいる女性を処罰せず、安心して生き直すための支援を保障すること。
そして、性売買を女性に対する暴力・人権侵害として捉えることが必要です。
右傾化や排外主義が広がり、女性の権利を求める活動そのものが攻撃される時代だからこそ、国境を越えた連帯が必要です。
これからも韓国の仲間たちと学び合い、性搾取のない社会を目指して、ともに声を上げていきます。

メディアの取材を受けました。
性売買の問題について、これからも現場で見てきたことや、女性たちの声を書いていきます。 よろしければ、無料の読者登録をして読んでいただけたら嬉しいです。
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