「厳格化」は本当に必要なのか――排外主義のなかで進む外国人政策を考える
週末、のりこえねっとの総会で行われた弁護士の児玉晃一さんによる講演「自民党政権による『外国人政策』のウソを暴く」に参加しました。
講演では、2024年以降、自民党政権のもとで外国人をめぐる次々と進められている制度変更、永住許可や帰化要件の厳格化、在留資格更新手数料の大幅引き上げ、経営管理ビザの見直し、「不法滞在者ゼロプラン」、強制送還、難民認定制度などの問題点が解説されました。
この記事では、その内容を紹介します。
「不法滞在者ゼロプラン」が目指すもの
2025年5月に出入国在留管理庁が公表した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」で、政府は、「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢に鑑み」として、不法滞在者ゼロを目標に掲げています。
プランには、難民認定申請の審査迅速化、送還の促進、自発的な帰国の促進、在留管理のデジタル化(DX)、電子渡航認証制度(JESTA)の導入などが盛り込まれています。また、2026年までに難民認定申請の平均処理期間を6か月以内に短縮することや、2030年までに退去強制令書が発付された人を半減させることなどの数値目標も示されています。
児玉さんは、「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている」という前提について、そのような社会状況を示す客観的な根拠が示されていないことを指摘されました。
また、「不法滞在」という言葉の問題にも触れ、国連では1975年以降、「illegal」ではなく「irregular(非正規)」や「undocumented(書類を持たない人)」という表現が使われていることを紹介しました。
アメリカでは、バイデン政権では非正規滞在という言葉が使われていたけれど、トランプ政権になって不法滞在という言葉に戻ったそうです。
世界には、数百万人から数千万人規模の非正規滞在者がいる国もあります。そうした国々では、長年その国で生活してきた人に在留資格を与える「正規化(レギュラリゼーション)」も実施されています。
講演では、スペインで約50万人が正規化された例や、アメリカでも約1,000万人規模の非正規滞在者について正規化が議論されていることが紹介されました。
一方、日本の非正規滞在者は約7万人と少ない規模感です。児玉さんは、「不法滞在者ゼロ」は送還だけではなく、正規化という方法によっても実現し得ると説明し、日本でも排除ではなく、正規化を一度してみたらいいと提案されました。
在留資格更新手数料の大幅引き上げ
在留資格の更新・変更手数料の大幅な引き上げも進められています。
更新・変更手数料は2025年4月に、約40年ぶりに4,000円から6,000円へ引き上げられました。
その後、さらに手数料の法定上限を1万円から10万円へ引き上げる法改正が行われました。
政府は「諸外国の水準」を理由に挙げていますが、それ以外の具体的な積算根拠は示されていません。
難民申請者の中には3か月や6か月ごとに在留資格を更新しなければならない人もいます。
たとえば家族4人で暮らしている場合には、更新のたびに4人分の手数料が必要になります。減免の可能性もあるとされていますが、その判断は行政の裁量に委ねられることになります。
経営管理ビザの厳格化
経営管理ビザについても、大きな制度変更が予定されています。
政府は、資本金要件を500万円から3,000万円へ引き上げるほか、日本人や永住者などの常勤職員1人以上の雇用、経営経験、日本語能力などの新たな要件を設ける方針を示しています。
しかし、すでに日本では深刻な人手不足が続いており、日本人従業員を確保することは簡単ではありません。そもそも、インド料理レストランなどで、日本人が雇用されていなくても、私たちの暮らしに今、何も問題はありません。
児玉さんは、日本人を雇用していないこと自体が問題になっているわけではないのに、一律に雇用要件を課す必要性がないことも指摘しました。
経営管理ビザの厳格化についても、制度変更の根拠が十分に示されていません。
入管庁は、「経営・管理」を悪用して日本に移住しようとする外国人に関する相談があり、「事業実態がないことが判明した事案も散見される」と説明しています。
「相談があり」「散見される」という抽象的な表現だけで、件数や割合などの客観的なデータは示されていません。国会で根拠を問われると、経営管理ビザで在留する約4万人のうち実態調査が行われたのは約30件程度だったことが明らかになりました。たった30件の調査を根拠に、日本で事業を行っている4万人のビザの要件をこのように引き上げようとしているのです。
児玉さんは、この程度の調査を根拠に制度全体を厳格化し、資本金を500万円から3,000万円へ引き上げることや、雇用要件・経歴要件などを一斉に厳格化するのは、立法事実として十分とはいえないと指摘しました。
小さなお店で資本金3000万円を用意することは、日本人でも簡単ではありません。
これまで5年10年、それ以上にわたって日本でお店を経営してきた人たちも、制度変更によって日本に暮らし続けられなくなる人が出てしまいます。
強制送還の強化は合理的な政策なのか
児玉さんは、強制送還を行うかどうかだけでなく、限られた公費をどのような政策に使うことが合理的なのかという視点が必要だと話します。
強制送還には本人の航空券だけでなく、同行する入管職員2人分の往復航空券や滞在費などが必要となり、例えば送還先がバングラデシュの場合で、1人あたり約50~60万円の公費がかかります。
入管白書には、国費送還は「国民の理解を得られない」として、できるだけ本人負担による任意出国を促してきたことが記されています。しかし近年は国費送還が増加しています。
一方でフランスでは、帰国費用だけでなく帰国直後の生活費も支給し、自発的な帰国を支援する制度があるそうです。
児玉さんは、日本でも強制送還だけでなく、公費の使い方や政策全体の合理性という視点からも考える必要があると話しました。
永住許可・帰化要件の厳格化
永住許可や帰化についても、運用の厳格化が進んでいます。
永住許可については、法律上は5年以上の在留が要件とされていますが、実際には10年以上の在留を求める運用が行われていることが公表されました。
法律の要件とは異なる基準で運用されている現状について、児玉さんは「法律は何のためにあるのか」と疑問を投げかけました。
永住許可申請についても、それまで3年の在留期間を持っている人を「最長の在留期間を持っている人」とみなして申請を受け付けていましたが、2027年度から5年の在留期間を持つことが求められるようになりました。
法律上の要件と実際の運用が異なれば、申請者にとって予測可能性が損なわれることになります。
送還通知制度の廃止
2026年2月には、送還通知制度が廃止されました。
これは、難民申請者が希望した場合、送還予定日のおよそ2か月前を目安に、代理人弁護士に通知を行う運用が、日本弁護士連合会と法務省入国管理局との取り決めに基づいて行われてきたものです。
通知を受けることで、送還前に裁判所への申立てなど必要な手続きを行う時間を確保することができ、送還後に権利救済の機会が失われることを防ぐ役割を果たしていました。しかし、この制度は廃止されました。
このように、自民党政権下で次々と排外政策が進められています。
「いかに抗うか」
児玉さんは、行政に要望するだけでは制度を変えることは難しく、立法や司法を通じた取り組みが重要だと話します。
前回の衆議院選では、こうした問題に関心を寄せていた議員がたくさん落選してしまいました。票にはならない、外国人の人権に取り組んできた人たちです。
児玉さんは、市民一人ひとりが選挙で意思を示すこと、周囲の人に伝えること、SNSなどで情報を発信・共有することなど「特効薬はないが、自分のできることを積み重ねていくしかない」と呼びかけました。

外国人政策は、外国人だけの問題ではありません。
すでに日本に暮らしている外国人の人権を脅かすような政策がまかり通る社会では、「日本人」の権利もまた、ないがしろにされていきます。
私たちが人権をどのようにとらえ、どのような共生社会をつくっていくのかが問われています。行政がどのような根拠に基づいて制度を変え、法律がどのように運用されるのかという問題は、日本社会全体のあり方に関わる問題でもあります。
Colaboにも海外にルーツのある少女や女性からの相談は多くあります。このイベントにはColaboとつながる女性たちも参加しました。
海外にルーツがあり、見た目で「外国人」と決めつけられてきた女性はこの日も「ここでも外国人って思われるのかな」と不安そうにしていました。制度や政策は、一人ひとりの暮らしやまた、私たちが出会う少女たちの間でも、SNSなどの影響によって排外的な言説が広がっていることを実感しています。
違いを恐れるのではなく、互いを知り、一緒に生きていく社会をつくること。そのための実践を、一人ひとりが積み重ねていくことが大切だと思っています。
のりこえねっとのYouTube番組「シリーズ キモいおじさん」では、
Colaboとつながる10代のメンバーと共に、学校、職場、街中など、あらゆる場面で出会う〈キモいおじさん〉のキモさやモヤモヤを流さず、そのキモさはなんなのか、問題を言葉にしています。
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