買春処罰だけでは足りない――売る側の非処罰と脱性売買支援を求めて
買春処罰導入に向けた議論を行っている法務省の「売買春に係る規制の在り方検討会」は非公開で行われています。私たち市民は、後日公開される議事録を読むしか、その内容を知ることができません。
性風俗店の顧問弁護士はヒアリングに呼ばれましたが、歌舞伎町で長年、性搾取の被害に遭う少女や女性たちと関わってきたColaboには声がかかりませんでした。(関連記事:「買春が処罰化されると経済損失」――誰の利益が守られているのか)
すでに公開された第二回までの議事録や報道を見る限り、性売買の現場で何が行われているのか、何が「サービス」とされるのかという実態や、女性たちがどのような暴力にさらされているのかについて触れられていません。にもかかわらず、今日の4回目の検討会では論点整理に入ったようです。実態の把握は終了の可能性があります。
また、検討会では、売る側の非処罰や脱性売買支援の構築といった重要な論点が議論されていません。
買春処罰が導入されても、同時に女性の非処罰と脱性売買支援がなされなければ、搾取の構造は変わりません。
これには強い危機感があります。
さらに、女性支援団体による「性交と肛門性交」だけを処罰の対象とするという意見には驚きました。(「3 検討会のこれまでの議論から特に強調したい点」で問題を指摘しています。)
もし、買春処罰の対象を「性交と肛門性交」に絞れば、買春者は「性交や肛門性交はなかった」と言い逃れすることができます。実際に挿入したかどうかは、現場で目視でもしない限り、第三者が確認することは不可能です。そのため、そのような方向での規制の導入がなされれば、実効性に乏しい制度となるのです。
搾取の構造をそのままに、性売買の温存に、また加担するのかと呆れました。この団体は、AV被害者救済法(という名前の性売買合法化法)をつくるときもそうだったからです。(AV新法の問題と制定過程を解説した『性売買を合法化する「AV新法」』はこちら)
現場の実態と必要な対策を伝えなければならないと思い、2026年5月27日、Colaboは意見書を提出しました。
性売買経験当事者ネットワーク灯火(とうか)からも、当事者による意見書「買春処罰と同時に、売春の非処罰化と脱性売買支援を含めた法制定を求めます」を提出しました。
今回は、Colaboの意見書の一部を紹介します。

法務省前で。性売買経験当事者ネットワーク灯火のメンバーと、Colaboの理事、スタッフと。
『日本における買春と若年女性に対する性搾取の実態、法的課題と政策提言』
1 若年女性に対する性搾取の現状
一 当団体による継続的な現場確認では、新宿歌舞伎町だけでも性売買業者(違法のスカウト・キャッチ)200名以上、買春者100名以上を毎晩確認している。路上に立つ性を売る状況にある女性は一晩50~100人程度。それ以外にSNSを通した売買春も深刻。
二 2年ほど前から円安の影響と、日本には買春処罰がないことがSNSで拡散され、外国人買春者が急増。しかし、日本人買春者が大半である。未成年の買春者も確認している。
三 女性に対する取り締まりが強化されたことによる悪影響
2024年4月、売春防止法の運用の変更、大久保公園で売春目的の客待ちをしたとして、売防法5条の勧誘等罪(客待ち)で住所不定の女性を逮捕。それまで、勧誘等罪は現行犯逮捕で適用されてきたが、この事件で初めて、過去の行為を対象に、女性が客待ちを繰り返し、買春客とホテルに入ったなどとして逮捕された。警視庁は「過去の客待ち行為でも逮捕されることがある」と報道でアピール。
→警察のおとり捜査を恐れて、外国人だけを相手にする女性が増えている。
→路上での摘発を恐れてSNSを通した性売買や業者による管理売春・風俗店に移行する
女性が増加。
性売買業者(性風俗店関係者)が「路上は逮捕のリスクがあるから店へ来ないか」と女性を風俗に斡旋。
→2024年7月、性を売る状況にあった女性4名の顔出し実名報道による人権侵害が発生。
路上で性売買する女性たちの背景には、障害、出産、子育て、ホストやメンズコンカフェ業者からの性搾取があるが、報道でも女性が犯罪者として報道され、被害からの回復がより困難になった。
大久保公園周辺への「見物者」も急増、性を売る状況にある女性が「見世物」になっている。
四 半グレ組織やトクリュウ、ヤクザ等の反社会的組織による管理売春の横行
14~17歳の少女を中心に全国から組織が歌舞伎町に集結。宿を拠点に管理売春。GPSで位置情報を管理。少年少女の背景には、虐待と児相への拒否感。補導への恐れがある。福祉機関でも「売春」した少女を被害者ではなく、非行として捉える傾向がある。売春女性の非処罰化が必要。
五 生活困窮から、「彼氏」や家族に売られ、路上や性風俗店で体を売る若年女性がここ2年で急増。被害の低年齢化と参入ハードルの低下も深刻で、12~14歳で性売買を開始するケースが多い。
背景には「コンカフェ」などライトな性売買の広がりの影響と、少女に対するグルーミングと性搾取が「メンズコンカフェ」「メンズ地下アイドル」「推し活」という名のもとで行われていることがある。若年層にとって少女性売買が当たり前の「選択」になるほど性売買が広がっている。路上における性売買と、性風俗店を含めた性の商品化は別物ではなく、深くつながっている。
六 脱性売買支援の欠如
若年女性の脱性売買のためには、単なる衣食住の提供だけでなく、支援者や安全な他者と関係性を作り、脱性売買の選択肢を提示しながら暮らしを支え、自立を支援していくことが必要。回復の過程では、性売買被害への認識とトラウマケア、経験の再解釈が必要となる。しかし、現状として、性売買問題や女性差別の構造に理解がない団体や、ただ「宿や飯」を提供するだけで女性たちと関係性を作ろうとしない団体による表面的な活動が増えている。そのため、民間団体のシェルターから歌舞伎町に毎日やってきて路上売春を続け、得た金をホスト等に回収されている女性もいる。
日本社会では脱性売買支援の実践が乏しく、支援体制が構築されていないことから、現状では民間支援団体が性売買業者にうまく活用されてしまっている。
2 必要な政策
一 買春処罰、性を売る状況にある人の非犯罪化と脱性売買支援を含んだ「性売買防止法」制定
性売買を女性(買われる側)に対する人権侵害と認識し、女性を処罰の対象とせず、被害者と位置づけ、脱性売買支援を提供する必要がある。性売買に女性が誘導される背景には、経済格差や性差別がある。
スウェーデンやフランス等で導入されている「北欧モデル」「ジェンダー平等モデル」とされる法形態、廃止主義が重要。売春・買春共に禁止する禁止主義では、被害女性は声をあげられないままとなる。買春処罰による「地下化」を懸念する声もあるが、現在も売春処罰により、被害女性は声を上げられず、被害は地下化している。
「地下化」させないためには、売春の「非犯罪化」と脱性売買支援を同時にすることが重要。
二 風俗店における性売買営業の禁止、風営法改正
日本では、売春防止法で売買春を禁止しながら、それ以外のあらゆる性行為を「性交類似行為」と位置づけ、性売買が「サービス」「産業」として広範に営業可能となっている。これは国際的にも極めて特異な制度構造である。(参考:月刊『地平』2026年4月号「歌舞伎町で。」(10)買春処罰だけでは足りない )
性売買では、挿入だけが問題なのではない。買春を処罰の対象としても、「買いたければ風俗店に行け」「体を売るなら路上に立つのではなく風俗店へ」ということでは搾取の構造は変わらない。
風俗店を含む、性売買の現場では女性に対するあらゆる暴力が正当化されている。母乳や妊婦、生理中の女性や食糞なども売買の対象とされている。お金で性を買うことは一番簡単な支配の方法である。(参考:月刊『地平』2026年5・6月号「歌舞伎町で。」(11)性風俗という暴力(12)続・性風俗という暴力)
フランスでは1946年から性売買店の営業禁止、2016年に路上における買春処罰と女性に対する脱性売買支援の法制定をした。買春者のみならず、性売買業者や性売買のために場所を提供したホテル等はフランスや韓国等では処罰対象。(参考:月刊『地平』2026年1月号「歌舞伎町で。」(7)罰されるべきは買う者)
性売買が風営法で合法化されている日本で、路上買春だけを取り締まっても搾取の構造は変わらない。路上売春している女性のほとんどは風俗店での性売買を経験しており、風俗店と路上を行き来している。
⇒日本でも、性売買に女性を誘導する社会構造を問い直し、風営法を含む性売買を女性に対する人権侵害と捉え、業者と購買者の取り締まりと、女性に対する脱性売買支援が必要。
三 支援制度の構築
① 児童相談所、警察、女性相談等の公的機関での不適切な対応の見直しと、ハイティーンの子どもたちに選ばれる支援の充実
② 性搾取に取り込まれやすい若年女性の支援について、性搾取の構造と女性差別の問題に理解のあるジェンダー視点で活動する団体への委託や連携が必要
③ 脱性売買支援制度の実践と構築
④ 行政機関や専門職、市民社会に対する性売買が女性に対する暴力であるという認識の周知と、学校教育における性売買問題に関する人権教育の導入
3 検討会のこれまでの議論から特に強調したい点
一 「地下化」のリスクという主張に関して
買春処罰をすることで、「リスクが高まる」「地下に潜る」という主張があるが、買春の勧誘行為が堂々と行われているからといって、女性が安全であるということはない。路上買春が街なかで堂々と行われている今も、ホテルや車中で女性は買春者と二人きりで裸で対応しなければならないし、それは、風俗店であっても同じだ。人目のあるところで行われる性売買など、基本的にはなく、人目のあるところで勧誘が行われているからといって安全だということもない。女性にとっての危険は今も存在していることに目を向けるべきだ。
Colaboでは、性売買のなかにいる少女や女性たちへの具体的な支援の実践から、その必要性を訴え、女性支援法の制定や若年女性支援事業等の法制化を行ってきた。性売買の背景にある社会構造に目を向け、女性の人権保障の観点から福祉の充実を求め、搾取の構造を変えていくべきだ。(「地下化」させないためには、買春処罰と同時に売春の「非犯罪化」と脱性売買支援を同時にすることが重要であることは先に述べたとおり)
二 性売買を人権侵害の問題ではなく「ビジネス」として主張することの問題
性風俗店の顧問弁護士である若林翔氏は検討会で、買春処罰の導入により客が委縮したり、性風俗そのものが違法化されたりすれば、二兆~五兆円もの経済的打撃が生じると主張し、「二一五万人の女性が職を失う」と訴えた。性売買を女性の人権や尊厳にかかわる問題ではなく、ビジネスとして捉えている。
性売買を「産業」や「雇用」の問題としてのみ捉える議論には重大な問題がある。
女性の人権の観点から見れば、それほど多くの女性が性を買われる状況に置かれていることこそが問題だ。6月5日発売の月刊『地平』2026年7月号「歌舞伎町で。」(13)で、若林氏の意見を女性の人権視点で現場の実態を踏まえて批判しているので、ぜひご覧いただきたい。
三 「性交と肛門性交」だけを処罰の対象とすると、買春処罰が形骸化する
検討会において、民間団体ぱっぷすの金尻カズナ氏が、性交類似行為に関しても「人権侵害性はある」と認めつつ、買春処罰の導入について「特に身体への侵襲性が高いもの」また「妊娠をするリスク」や「性感染症に罹患する」観点から、「性交と肛門性交というのがボーダーとして国としてのコンセンサスがとれるところではないか」「とにかく性交や肛門性交による被害が深刻であるという点をフォーカスしていただき」たいと述べた。
性売買の実情に照らしてみると、性売買の現場では挿入以外の性交類似行為においても、異物や食品等を膣や肛門に入れるなどの「身体への侵襲性が高い」行為が行われていたり、「素股」と呼ばれる行為に代表されるように「妊娠」や「性感染症」のリスクがある行為は「性交と肛門性交」以外にも日常的に行われている。
もし、買春処罰の対象を「性交と肛門性交」に絞れば、買春者は「性交や肛門性交はなかった」と言い逃れすることができる。実際に挿入したかどうか、ということは、その現場で目視でもしない限り、第三者が確認することは不可能だ。そのため、そのような方向での規制の導入がなされれば、実効性に乏しい制度となる。
四 性売買を女性の人権問題として捉えて活動する支援団体と被害当事者へのヒアリングを
当団体にはヒアリングの依頼がなかったが、ぜひ現場の実態からみる法改正への意見を述べさせていただきたい。また、買春を暴力として捉え、法改正を求める当事者の声を聞いていただきたい。(性売買経験当事者ネットワーク灯火のHPはこちら)
検討会においては、買春処罰を「路上売春対策」や「迷惑防止」の延長としてではなく、女性に対する暴力と性搾取をなくすための制度改革として位置づけていただきたい。
そのためには、買春者・業者・斡旋者・場所提供者への規制を強化すると同時に、性を売る状況にある人を処罰の対象から外し、脱性売買支援、居住支援、生活保障、トラウマケアを含めた支援を一体的に整備することが不可欠である。性売買の被害は女性に集中している一方で、男性や性的マイノリティが搾取状況に置かれるケースもあり、非犯罪化と支援はすべての当事者に保障される必要がある。
買春処罰だけでは不十分であり、しかし買春処罰を欠いたままでは、性売買を支える需要側の責任を問うことはできない。
世界では、性売買は「ジェンダーに基づく暴力」(Gender-Based Violence)として認識した上で対策がなされている。女性差別撤廃条約(CEDAW)等でも、女性の性搾取からの保護は国家の責任として位置づけられている。日本においても、性売買を女性に対する人権侵害として位置づけた法改正を求める。
意見書の提出について、神奈川新聞と赤旗で報じられました。

2026年5月27日、神奈川新聞

2026年5月27日、しんぶん赤旗
2026年5月9日に、朝日新聞でも性売買問題について取り上げられました。
売る側と買う側の権力構造を逆転させる必要性や、性売買が人を性的に道具として扱っていることの暴力性についてお話ししています。

大阪大学教授の島岡まなさんと、朝日新聞の大貫記者との対談動画が6/30までこちらで公開中です。ぜひご覧ください。
【6/30まで配信】朝日新聞・記者サロン対談動画『買春は暴力 変わるフランス、日本は』
売春のための客待ちをしたとして、路上に立つ女性たちの摘発が相次いでいます。
客を「勧誘した」として売春防止法が売る側を処罰の対象としているためです。
フランスは2016年、買春を「暴力」と位置づけ、売る側を非犯罪化し、買う側に罰則を科す「買春処罰法」を制定しました。
1956年の売防法制定から70年、日本でも高市早苗首相が規制のあり方の見直しを法相に指示する動きも出ています。
フランスの現場から見える日本の課題や問題点を探ります。
性売買の問題について、これからも現場で見てきたことや、女性たちの声を書いていきます。 よろしければ、無料の読者登録をして読んでいただけたら嬉しいです。
▽Colaboの活動は市民のご寄付に支えられています。活動基盤と継続を支えるサポーター会員になってください!一日35円~のご寄付が性搾取のなかにいる少女たちを支えます。
▽女性人権センター建設プロジェクトに寄付をする
すでに登録済みの方は こちら
